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東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)231号 判決

アメリカ合衆国ニユージヤージ州プリンストン

インデペンデンス・ウエイ 二

承継参加人

アールシーエー ライセンシング コーポレーシヨン

右代表者

ユージーン エム ウイトカー

右訴訟代理人弁理士

清水哲

田中浩

荘司正明

アメリカ合衆国ニユーヨーク州スケネクタデイリバー・ロード 一

吸収合併により元原告アールシーエーコーポレーシヨンを

ゼネラル エレクトリツク カンパニイ

承継した後脱退した脱退原告

右代表者

デニス エイチ アールベツク

東京都千代田区霞が関三丁目四番三号

被告兼被参加人

特許庁長官 深沢亘

右指定代理人

嶋田祐輔

後藤晴男

今井健

主文

特許庁が、同庁昭和六一年審判第六九二六号事件について、昭和六二年五月一五日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告兼被参加人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた判決

一  承継参加人

主文同旨

二  被告兼被参加人(以下「被告」という。)

1  承継参加人の請求を棄却する。

2  訴訟費用は承継参加人の負担とする。

第二  請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

元原告アールシーエー コーポレーシヨンは、名称を「電子銃」とする発明(以下「本願発明」という。)につき、一九七八年(昭和五三年)四月一二日にアメリカ合衆国においてなされた出願に基づく優先権を主張して、昭和五四年四月一一日に特許出願(特願昭和五四年第四四八三四号)をしたとこる、昭和六〇年一一月二九日に拒絶査定を受けたので、昭和六一年四月一四日、これに対し審判の請求をした。

特許庁は、同請求を同年審判第六九二六号事件として審理した上、昭和六二年五月一五日、「本件審判の請求は、成り立たない。(出訴期間として九〇日を附加)」との審決をし、その謄本は、同年六月二四日、元原告に送達された。

二  承継参加人による権利の承継

元原告は、昭和六二年一〇月二〇日、右審決の取消を請求する本件訴訟を提起したが、同年一二月三一日、脱退原告に吸収合併され、本願発明について特許を受ける権利は脱退原告が承継した。

承継参加人は、昭和六三年九月二二日、脱退原告から本願発明につき特許を受ける権利を譲受け、同年一〇月三日特許庁長官にその旨を届け出た。

三  本願発明の要旨

互いに離間してこの順に配置された陰極、孔あき板状制御グリツド、孔あき板状遮蔽グリツド、筒状の第一のレンズ電極及び第二のレンズ電極を含むと共に、上記遮蔽グリツドはその開孔の直径の〇・四~一・〇倍の厚さを持ち、上記第一のレンズ電極はそのレンズ直径の二・五~五・〇倍の長さを持つことを特徴とする電子銃。(以下本願発明にっき本判決別紙本願図面参照)

四  本件審決の理由の要点

1  本願出願の経過は一のとおり、本願発明の構成に欠くことができない事項としての特許請求の範囲(1)の記載は三のとおつである。

また、本願発明の実施態様として特許請求の範囲(2)に、「上記遮蔽グリツドと上記第一のレンズ電極との間の間隙が、電子銃の動作時に、両者間に三九三七~一五七四八V/mm(一〇〇~四〇〇V/mil)の強さの電界が形成されるようにさだめられている特許請求の範囲(1)に記載の電子銃。」が記載されている。

2  これに対して、拒絶査定においては、特公昭四二-五八九五号特許出願公告公報(以下「第一引用公報」という。)、特公昭五二-一二六六号特許出願公告公報(以下「第二引用公報」という。)及び実願昭五一-一〇二〇五〇号実用新案登録願(実開昭五三-二〇五六二号)の願書に添附した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフイルム(以下「引用マイクロフイルム」という。)を引用し、「本願発明」は第一引用公報、第二引用公報及び引用マイクロフィルムに記載された発明に基づいて当業者がきわめて容易に考案をずることができたものと認めて本件出願を拒絶したものである。

3  各引用公報をみると、

(一) 第一引用公報の特許請求の範囲には、「陰極線管電子銃、特に低Ec2電子銃において、第二格子電極の孔径d2を第一格子電極の孔径d1より大ならしめるかほぼ等しく成し、該第二格子電極の孔径d2の肉厚t2あるいは孔径d2の実効長t2'を該第二格子電極の孔径d2とほぼ等しいかあるいはそれ以上とした事を特徴とする陰極線管。」の発明が、

(二) 第二引用公報の四頁7欄一三行から一九行までには、「第一グリツド8、第二グリツド10、および第三グリツド12の厚さをそれぞれ〇・二〇mm、〇・五〇mmおよび〇・五〇mmとする。

従つて第三グリツド12の厚さは本発明の必要条件のように比較的小さく一mm以下である。円形孔9、11および13の直径をそれぞれ〇・七五mm、〇・七五mmおよび二・〇mmとする(電子銃)。」の発明が、

(三) 引用マイクロフイルムの実用新案登録請求の範囲には、「一五KV以上の高電圧が印加される第三陽極とともに集束形の電子レンズを生起する第二陽極の長さを、同第二陽極の先端開口部口径の四ないし一〇倍となしたバイボテンシヤル形電子銃を備え、前記第二陽極に第三陽極電圧の二五ないし五〇%に相当する高電圧を印加したことを特徴とするカラー受像管装置。」の発明が、それぞれ記載されている。

4  本願発明と第一引用公報、第二引用公報及び引用マイクロフイルムに記載された発明とを対比するために各引用公報及び引用マイクロフイルムに記載された発明について検討する。

第一引用公報に記載された発明における「第二格子電極」は、本願発明における「孔あき板状遮蔽グリツド」に、また第二引用公報における「第ニグリツド10」は、本願発明における「孔あき板状遮蔽グリツド」に、それぞれ相当するから、第一引用公報に記載された発明における「該第二格子電極の孔径d2の肉厚t2あるいは孔径d2の実効長t2'を該第二格子電極の孔径d2とほぼ等しいかあるいはそれ以上とした」は、「孔あき板状遮蔽グリツドの厚さを孔径とほぼ等しいかあるいはそれ以上とした」ということであり、第二引用公報に記載された発明における「第二グリツドの厚さを〇・五mmとする。円形孔の直径を〇・七五mmとする。」は、「孔あき板状遮蔽グリツド厚さは〇・五〇mm、円形孔の直径は〇・七五mm」ということである。

そして引用マイクロフイルムにおける第二陽極及び第三陽極は本願発明における第一のレンズ電極及び第二のレンズ電極に相当するから、引用マイクロフイルムに記載された発明における「第三陽極とともに集束形の電子レンズを生起する第二陽極の長さを、同第二陽極の先端開口部口径の四ないし一〇倍となした」は、「第二レンズ電極とともに集束形の電子レンズを生起する第一レンズ電極の長さを、同第一レンズ電極の先端開口部口径の四ないし一〇倍となした」ということである。

5  このように検討をした上で特許請求の範囲(1)に記載された本願発明の構成と第一引用公報、第二引用公報及び引用マイクロフイルムに記載された発明との対比を行う。

(一) はじめに、特許請求の範囲(1)に記載された本願発明の構成中「遮蔽グリツドはその開孔の直径の〇・四~一・〇倍の厚さを持つている」点は、厚さが〇・五〇mm、円形孔の直径が〇・七五mmであつて、その開孔直径の〇・六七倍(0.50mm/0.75mm≒0.67)の比を持つている第二引用公報記載の孔あき板状遮蔽グリツドの数値をその数値範囲に含んでいる。

これらの数値について本願明細書二一頁に記載された発明の実施例にもそれぞれ〇・五〇八mm(二〇mil)及び〇・六三五mm(二五mil)と、第二引用公報に記載された発明の場合と非常に近い数値が示されており、この数値の根拠について、本願明細書九頁一四行から一一頁二行に、「電子銃26は遮蔽グリツド38と第一集束電極40との間に強い電界が生じるようにその間隔を比較的狭くすると共に/あるいは第一集束電極の電圧を比較的高くして働かされる。第一集束電極40によるこの高圧電界は等電位線72で示すように遮蔽グリツド38の開孔へ入りこむが、遮蔽グリツド38の厚さが制御グリツド36のそれと実質的に同じでまた第一集束電極40からの高電圧が遮蔽グリツドの開孔を完全につきぬける従来法の電子銃とは異なり、この発明の電子銃の厚い遮蔽グリツドはその開孔56の直径に比べて十分に厚いため開孔に一部しか入りこまない。これによつて等電位線74で示すように制御グリツド電圧により形成される電界が遮蔽グリツドの制御グリツド側からの遮蔽グリツドの開孔56に入りこんで電子線68に発散力を働かし得るようになる。このため集合点侵入角α(第1図)が他の場合に比し減少し、集合点70が他の場合より表示面に接近する。これにより退去角βが減少し、電子線76が集合点から発散しつつ主集束レンズヘ進む電子ビームの密度が高くなり、図示のように陰極34から任意の距離において電子線76は比較的細く高密度のビーム78を形成する。また遮蔽グリツド38の比較的平担な軸に直交する板状部52もこの発明の電子銃26の特徴である。このような扁平な電極構造により遮蔽グリッドと第一集束電極との間にこのように比較的平担で事前集束作用が実質的にない等電位線82が形成される。電子銃のこの部分で事前集束を避けられることは以下詳述するように倍率の低下につながる。」と記載されているが、関連する唯一のグラフである第8図の記載によれば孔あき板状遮蔽グリツドが本願発明の構成のようにその開孔の直径の〇・四~一・〇倍の厚さを持つことは、第二引用公報に記載された発明の構成のように〇・六七倍の厚さを持つことに対して格別の意味を有してるとは認められず、またこの〇・六七倍という数値が本願発明の構成である〇・四~一・〇倍の範囲に含まれることをも併せて考えると、この本願発明における数値限定は第二引用公報に記載された発明の構成として開示されているものと認める。

なお、第一引用公報には発明の構成として、遮蔽グリツドである第二格子電極の厚さが孔径とほぼ等しい電子銃すなわち本願発明の構成の数値の上限である一・〇倍の電子銃が開示されている。

(二) 次に、特許請求の範囲(1)に記載された本願発明の構成中「第一のレンズ電極はそのレンズ直径の二・五~五・〇倍の長さを持つている」点は、

(1) 本願明細書二五頁一七行から二六頁六行に、「遮蔽グリツドの厚さがその開孔直径の約〇・四倍から一・〇倍まで変ると、ビームの集合点退去角βが約〇・〇六七五ラジアンから〇・〇四二ラジアンまで変り、最適集束電極の長さがそのレンズ開孔直径の約二・五倍から五・〇倍までになる。

この第一集束レンズ電極の長さとレンズ直径との間の二・五~五・〇倍の関係は、遮蔽グリツド開孔直径が約〇・六三五mm(二五mil)のとき(第7図)だけでなく、他の適当な開孔寸法のときにも同様に成立することが実験的に示されている。」と、

(2) 同一三頁一三行から一四頁四行に、「第7図はここで述べる一般級の電子銃の遮蔽グリツドと集束電極との間の電界強度とビーム光点の大きさとの関係を示す。この第7図においては電界強度が集合点における理論的なビーム光点寸法Sthに対する実際のビーム光点寸法Scrの比についてプロツトされている。理論的最小ビーム光点寸法Sthは集合点の光点に対する熱電子放射の効果によつて決まるものである。図示のようにこの光点寸法比は電界強度が約五九〇六~九八四三V/mm(一五〇~二五〇V/mil)の間で増大するとき鋭く落ちるがこの範囲の両側では水平に近ずく。」と、

記載されているが、関連する唯一のグラフである第8図の記載によれば第一レンズ電極が本願発明の構成のようにそのレンズ直径の二・五~五・〇倍の長さを持つことは、引用マイクロフイルムに記載された発明の構成のように四~一〇倍の長さを持つことに対して格別の意味を有しているとは認められず、またこの四~一〇倍という数値の一部が本願発明の構成である二・五~五・〇倍の範囲に含まれることをも併せて考えると、この本願発明における数値限定は引用マイクロフイルムに記載された発明の構成として開示されているものと認める。

(三) そして、特許請求の範囲(1)に記載されたその他の構成はいずれも電子銃の構成として知られているものであるから、結局本願発明と第一引用公報、第二引用公報及び引用マイクロフイルムに記載された発明とはその構成において、本願発明の「遮蔽グリッドはその開孔直径の〇・四~一・〇倍の厚さを持ち」、「第一のレンズ電極はそのレンズ直径の二・五~五・〇倍の長さを持つている」のに対し、第一引用公報、第二引用公報及び引用マイクロフイルムに記載された発明がどちらか一方の構成しか有していない点のみで両者は相違している。

6  この点について審判請求人(元原告)は、審判請求理由において、「・・・そしてこれらの引例は、ビーム形成部と集束部との個別の設計条件を示しているだけで、思想的に、本願発明における、ビーム形成部と集束部との相互作用の存在を考慮してビーム集合点に対するビーム進入角を小さくしかつ主収束レンズの物体距離を長くしてそのレンズ倍率を小さくすることにより光点特性を改善するという考え方を全く示していない。従つて、この様な引例の記載事項を基に本願発明を容易に発明できたとする審査官の見解は正しくない。・・・第一引用公報および第二引用公報には、集合点の生成位置に関する本願発明者のような発見、およびビーム形成部と集束部の相互依存性の存在につき何の認識も示されていない。・・・」と主張している。

この主張において本願発明の特徴点とされている「ビーム形成部と集束部との相互作用の存在を考慮してビーム集合点に対するビーム進入角を小さくしかつ主収束レンズの物体距離を長くしてそのレンズ倍率を小さくすることにより光点特性を改善するという考え方」について、

(一) 本願明細書四頁七行から一五行までに、「この出願の発明者は電子銃の集束系により表示面上に結像される第一の集合点が電子銃中従来考えられていたより遥かに前方にあることを発見し、これに基いて電子銃のビーム形成機能とそれに続く集束機能との間の相互依存性を知るに至つた。この結果電子銃の諸設計値を正しく選択し組合せることによつてそのビーム光点性能に予期しない改善が得られることが判つた。」と、

(二) 同一七頁五行から一一行までに、「したがつて遮蔽グリッドの厚さがその開孔直径の〇・四倍から一・〇倍まで変化すると最適集束電極40長の範囲が約二・五から五・〇まで変る。これらの数字からこの発明の電子銃26のこの実施例に対し最適集束電極40長が上記の好ましい寸法変動の範囲に亘つて遮蔽グリッドの厚さの約四〇倍から六〇倍まで変ることがわかる。」と、それぞれ記載されているが、これらの記載はいずれも本願発明と第一引用公報、第二引用公報及び引用マイクロフイルムとの唯一の相違点である「遮蔽グリッドはその開孔直径の〇・四~一・〇倍の厚さを持ち」、「第一のレンズ電極はそのレンズ直径の二・五~五・〇倍の長さを持つている」ことの積極的な根拠すなわち「ビーム形成部と集束部の相互依存性の存在」を示しているものとは認められない。

このようにみると、本願発明、第一引用公報、第二引用公報及び引用マイクロフイルムに記載された発明はいずれも陰極線管用電子銃に係るものであるから、第一引用公報あるいは第二引用公報に記載された発明と引用マイクロフイルムに記載された発明とを組み合わせることに格別に困難な点は認められず、このようにして本願発明をすることは、当業者にとつて容易なことである。

7  なお、審判請求人(元原告)は審判請求理由において、

「本願発明のこの考え方は、具体的には特許請求の範囲第(1)、(2)項に記載の構造で実現されるもので、第(1)項についていえば、

a 互いに離間して願番に配置された、陰極、孔あき板状制御グリッド、孔あき板状遮蔽グリッド、筒状の第一のレンズ電極および第二のレンズ電極、

b 遮蔽グリッドはその開孔直径の〇・四~一・〇倍の厚さを持ち、

c 第一のレンズ電極はそのレンズ直径の二・五~五・〇倍の長さを持つている、

また第(2)項の発明として前記aないしcの条件に更に

d 遮蔽グリッドと第一のレンズ電極の間の間隙が、電子銃動作時に、両者間に三九三七~一五七四八V/mm(一〇〇~四〇〇V/mil)の強さの電界が形成されるように定められている、

構造で実現される。

上記aないしdの構造のうち、特にbないしdが重要であつて・・・」と主張しているが、本願明細書及び本願図面の記載によればこの主張における構造dは特許請求の範囲(2)に実施態様の構成として記載された事項であつて、同(1)に本願発明の構成に欠くことができない事項として記載された要件ではないから結局、前記主張において記載された構造aないしcのみが本願発明の構成要件であると認められるから、上記主張を採用することはできない。

8  このように、本願発明は本件出願前に頒布された刊行物である第一引用公報、第二引用公報及び引用マイクロフイルムに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第二九条第二項の規定により出願人はこの発明について特許を受けることができないとして本件出願を拒絶した原査定は妥当なものであると認める。

五  本件審決を取り消すべき事由

本件審決は、本願発明の目的、効果を看過誤認し、更に、引用マイクロフイルムに記載の効果を誤認して、本願発明の第一のレンズ電極の長さが引用マイクロフイルムに記載の第二陽極の長さに対して持つ格別の意味を看過誤認し(認定判断の誤り第1点)、本願発明における「ビーム形成部と集束部の相互依存性の存在」を看過誤認した(認定判断の誤り第2点)結果、本願発明は、第一引用公報又は第二引用公報に記載された発明と引用マイクロフイルムに記載された発明とを組み合わせることにより容易に発明をすることができると判断を誤つた(認定判断の誤り第3点)違法があるから、取り消されなければならない。

なお、本件審決の認定判断中、四3、4、5の(一)、5の(二)中「関連する唯一のグラフである第8図の記載によれば第一レンズ電極が本願発明の構成のようにそのレンズ直径の二・五~五・〇倍の長さを持つことは、引用マイクロフイルムに記載された発明の構成のように四~一〇倍の長さを持つことに対して格別の意味を有してるとは認められず」との部分を除く部分、及び5の(三)は認める。

1  認定判断の誤り第一点

本件審決は、「第8図の記載によれば第一レンズ電極が本願発明の構成のようにレンズ直径の二・五~五・〇倍の長さを持つことは、引用マイクロフイルムに記載された発明の構成のように四~一〇倍の長さを持つことに対して格別の意味を有しているとは認められず」と認定判断した(前記四5(二)参照)が、この認定判断は誤りである。(一) 即ち、右の第一レンズ電極の長さがレンズ直径の二・五~五・〇倍であるということは、第8図に関して本願明細書一七頁六行から八行までに説明するとおり、遮蔽グリツドの厚さをその開孔直径の〇・四~一・〇倍に選んだときの最適長を表わしている。

第一レンズ(第一集束)電極の最適長は、本願明細書二四頁一九行から二五頁四行までに記載されたとおり「任意に選ばれた(3.5mAの)基準ハイライト駆動電流で電子銃が動作するとき、第一レンズ電極の向前端(表示面側の端部)にある主集束レンズ内における電子ビームの直径が、この電極のレンズ形成用開口の直径の約二分の一またはそれより僅かに小さくなるように選ばれた長さ」をいうものであつて、特に定義づけはしていないが不明なことはない。

そもそも、本願発明で、遮蔽グリツドの厚さを開孔直径の〇・四~一・〇倍とし、第一レンズ電極の長さをレンズ直径の二・五~五・〇倍とする目的は、電子ビームの集合点進入角と退去角を減少させて、陰極から任意の距離における電子ビームを細くかつ高密度化し(本願明細書一〇頁九行から一五行まで)レンズに対するビームの充填過剰を生じることなく倍率を低下させて(本願明細書一六頁一二行から一六行まで)、レンズの中心の低球面収差部分を利用することにより、最終的に収差の少ない低倍率の(小径の)ビーム光点像を形成する(本願明細書一八頁八行から一六行まで)という効果を得ることにあり、第8図におけるレンズ直径の二・五~五・〇倍という電極長は、集合点の進入角と退去角を減少させるべく開孔直径の〇・四~一・〇倍の厚さをもつ遮蔽グリツドに対してこの効果を得るに最適の長さである。

しかも、この電極の長さを、右の如く選定された長さよりも長くすると球面収差の問題が生じ、短くすると倍率が増大して(本願明細書二五頁九行から一四行まで)、何れも電子銃として不適切な結果をもたらすという技術的事実も明らかであるから、この選び方によつて選定された長さを最適長とすることは技術的にも妥当である。

そして第8図は、遮蔽グリツドの厚さをその開孔直径の〇・四~一・〇倍に選んだときの、右に示す条件を満たす第一レンズ電極の長さを最適長としてそれがレンズ直径の二・五~五・〇倍に相当することを確認した実験結果を曲線として示す図表である。

(二) 引用マイクロフイルムにいう四~一〇倍の長さは、第8図に当てはめていえば最も右側にある「G3のレンズ径に対するG3の長さ軸」上において四・〇の位置からその下方図示されていない一〇・〇の位置に及ぶ範囲に相当し、しかも曲線下部の屈曲点(遮蔽グリツドの厚さと開孔直径の比が一・〇に相当する点)から水平に引いた線と右の「G3のレンズ径に対するG3の長さ軸」との交点(四・九五の位置)から下方の部分を全範囲の六分の五も含んでおり、この部分は本願明細書中にいう最適集束電極長から外れたいわば不適切電極長に相当する。

この不適切電極長は、本願発明の目的から見れば「物体距離が増し倍率が低下するが・・・レンズ内のビーム直径が大きくなり、レンズ収差の問題が大きくなる」(本願明細書二五頁一〇行から一三行まで)範囲に属し、収差の少ない低倍率のビーム光点像の形成(本願明細書一八頁八行から一六行まで)という効果を実現できない値に相当する。

もつとも、正確に言えば、右に「不適切電極長」と指摘したのは、引用マイクロフイルムに記載の「四~一〇倍」のうちの一部である「四・九五~一〇倍」の範囲に入る電極長である。この範囲の電極長は、仮に第一陽極(遮蔽グリツド)の寸法的特徴、諸電極の位置関係及び印加電圧を本願発明のそれと同一にしたとしても、本願発明の目的から見て不適切である。

また、前記四~一〇倍のうち残りの「四~四・九五倍」の範囲に入る電極長は、第一陽極(遮蔽グリツド)の寸法関係との関連性が引用マイクロフイルムに記載されていないので推察のしようがない。勿論、その範囲の電極長が、本願発明の目的に照らし最適あるいは適切であると断定する根拠はない。

引用マイクロフイルムには、第二陽極(本願発明の第一レンズ電極に相当)電圧を高めて電子レンズ倍率を小さくしかつ良好なスボツトを得る場合の第二電極としてその長さをその開口部口径の四~一〇倍に設定する考えとそれによる効果は開示されているが、第一陽極(本願発明の遮蔽グリツドに相当)の厚さと開孔直径の関係に対する第二陽極の適切な長さ及び効果についての記載はない。

被告の主張する電子銃の特性が各電極の形状と印加電圧によつて定まることが技術常識であることは認めるが、本願発明では、本願明細書九頁二行から一〇頁一五行まで及び一一頁三行から一二頁八行までにおける本願発明の電子銃(第4図)と在来型電子銃(第5図)の特性に関する説明から明らかな様に、各電極の形状寸法及び印加電圧を同様なものとした上で集合点進入角αを小さく退去角βを小さくできる遮蔽グリツドの厚さを基に第一レンズ電極の長さを決定するのに対し、引用マイクロフイルム記載の技術では第二陽極電圧を高めることで良好なスポツトが得られる(甲第一一号証二頁d三行から六行まで)との認識を基に第二陽極以外の寸法形状は同一として、高い第二陽極電圧に適応できる第二陽極の長さを決めているので、両者の電極長選定の手法は同一ではない。つまり右両者の違いには「格別の意味」がある。

(三) よつて、冒頭に引用した本件審決の「格別の意味を有しているものとは認められず」との認定判断は、本願発明の目的、効果を看過し、更に引用マイクロフイルムに記載の効果を本願発明の効果と同一と誤認したことによる誤つた判断である。

2  認定判断の誤り第2点

本件審決は、本願明細書四頁七行から一五行まで及び一七頁五行から一一行までの記載を摘示した上で、「これらの記載は・・・唯一の相違点である「遮蔽グリツドはその開孔直径の〇・四~一・〇倍の厚さを持ち」、「第一のレンズ電極はそのレンズ直径の二・五~五・〇倍の長さを持つている」ことの積極的な根拠すなわち「ビーム形成部と集束部の相互依存性の存在」を示しているものとは認められない。」(前記四6参照)と認定判断している。

しかしこの様な認定判断は、本願明細書中における「相互依存性の存在」に関する説明を看過しまたは誤認したことによるものであつて、明らかに誤りである。

(一) 本願明細書中でいう「ビーム形成部と集束部の相互依存性」とは、事前集束作用或いは復雑な主集束レンズ系を使用せずに最適の電子ビームスポツトを得る場合に、ビーム形成部と集束部の各々をそれぞれ他方を考慮して変えねばならないことを意味する。本願発明では、物体距離を大きくして主集束レンズの倍率を小さくするように調節された第一レンズ電極の長さとレンズ直径の比と共働して最適のビームスポツトを得られるように、電子ビーム集合点進入角と退去角をそれぞれ減少させて集合点自体を更に前方(陰極から遠く)に移動させるように遮蔽グリツドの厚さと開孔直径の比を調節すること、に相当する。

本願明細書中には右の定義そのまゝの説明的字句はないが、事前集束作用を使用しない点は、例えば、本願明細書五頁一行から二行まで、八頁一八行目、一三頁七行から一〇行まで及び二〇頁一一行から一八行までに、複雑な主集束レンズ構造を使用しない点は、本願明細書一五頁一六行から一六頁二行までに、ビーム形成部と集束部がそれぞれ他方を考慮して(寸法的諸元を)変えねばならぬ点は、本願明細書一六頁七行から一七頁一行まで。一七頁六行から八行まで、一八頁八行から一六行まで及び二四頁一九行から二六頁一行までにそれぞれ記載されている。

(二) 以下、具体的に説明すれば、本願明細書中には、「遮蔽グリツドの厚さをその開孔直径の〇・四倍乃至一・〇倍とすること」は、電子ビームの集合点角を減少させるためで(八頁一一行から一三行まで)、現実にその様な寸法関係を選択すれば、第一集束電極40による高圧電界が遮蔽グリツドの開孔56をつきぬけることなくその開孔に一部しか入りこまず(九頁一七行から一〇頁五行まで)、そのため制御グリツド電圧により形成される電界が遮蔽グリツドの開孔56に入りこんで電子線に発散力を働かして、集合点進入角αを減少させることゝなり(一〇頁五行から一〇行まで)、その結果退去角βが減少し集合点から発散しつつ主集束レンズへ進む電子ビームの密度が高くなり、すなわち比較的細く高密度のビーム78が形成される(一〇頁一一行から一五行まで)として、「ビーム形成部」の主たる作用が説明されている。

これと同一趣旨は、本願明細書一六頁三行目からの第8図に関する説明特に同頁七行から一三行までにも説明されている。第8図は、本願発明の電子銃において遮蔽グリツド開孔直径を約〇・六三五mm(二五mil)集束電極のレンズ直径を約五・四六三mm(二一四mil)としたときの集合点退去角βと最適集束電極40の長さとを遮蔽グリツドの厚さの関数として示す図表(本願明細書一六頁三行から七行まで)であつて、遮蔽グリツド開孔直径が前紀の約〇・六三五mm以外の値のときにも適用できる(本願明細書二六頁二行から六行まで、なお四行目の(第7図)は(第8図)のミスタイブである)ものであるが、本願明細書にはこの図表を参照して、前記「ビーム形成部」の作用によつて退去角βが減少しビーム直径が縮小するため(本願明細書一六頁一二行から一三行まで)、直径が約五・四六三mmなるレンズに対して、ビーム充填過剰(レンズの、収差の大きな周辺部へのビームの拡がり)を生ずることなしに集合点から電子ビームを投入できる集束電極40の長さを増大することができ、したがつて集束電極40と42からなる集束系(すなわち「ビーム集束部」)の物体距離を伸ばして倍率(本願明細書一七頁(1)式参照)を低下させることが可能になる旨(本願明細書一六頁一三行から一六行まで)、及び遮蔽グリツド厚さ約〇・二五四mm(一〇mil)と約〇・六三五mm(二五mil)に対する最適の集束電極40長がそれぞれ約一三・九七〇mm(五五〇mil)と約二六・九二四mm(一〇六〇mil)であつて、遮蔽グリツド厚さと集束電極40の長さ対レンズ直径の比の値との間にはほゞ直線的な関係がある旨(本願明細書一六頁一七行から一七頁八行まで)の説明がなされている。

なお、本願明細書一六頁一七行から一七頁八行までに「直線的な関係」なる語は使用されていないが、その部分の説明は第8図に関するものであり、第8図から、上辺横軸に示す遮蔽グリツドG2の厚さに対する最右側の縦軸に示す第一レンズ電極G3の長さ対レンズ直径比の関係が、この発明が対象とする遮蔽グリツドの厚さ対開孔直径比が〇・四~一・〇の範囲内で、直線的であることは明らかである。

右遮蔽グリツド厚さの数値は第8図では下横軸の「G2の厚さ/G2の孔径」上の値〇・四と一・〇に相当するから、簡単に言えば、本願明細書中の右引用各部の説明および第8図は、「ビーム形成部」における遮蔽グリツド厚さをその開孔直径の〇・四倍から一・〇倍の範囲で変化させればそれに応じて「ビーム集束部」における第一のレンズ電極の最適長がレンズ直径の二・五倍から五・〇倍の範囲で変化すること、すなわちビームの「形成部」と「集束部」の要部寸法関係の間には相互依存性があることを明示している。更に、右の相互依存性の存在に関する説明と同様な趣旨の説明は、本願明細書の一八頁三行から一六行まで、二五頁一七行から二六頁一行までにもある。

そして本願明細書は第8図の曲線のみで相互依存性の存在を説明しようとするものではない。この曲線は、遮蔽グリツドの選ばれた範囲内の各厚さに対する第一レンズ電極の最適長を表わしているが、曲線を外れた面内各部の点も前記遮蔽グリツドの各厚さに対し最適とはいえないまでもなお適切な第一レンズ電極長を表わしており、何れも厚さを開孔直径の〇・四~一・〇倍とした遮蔽グリツドの呈する効果と相俟つて良好な(歪が少なく小寸法の)ビーム光点を実現できる電極長である。

ところで、遮蔽グリツドの厚さをその開孔直径の〇・四~一・〇倍に限定した理由は、〇・四倍以下にするとその開孔入口で所要の発散作用が得られず、また一・〇倍以上にするとレンズの収差効果が現れて周辺のボケたビーム光点を生ずると共に無用のドリフト領域が形成され更に製作時の加工が困難になるためである(本願明細書二四頁七行から一八行まで)。

なお、「所要の発散作用」とは、本願明細書一〇頁五行から九行までに記載されたとおり遮蔽グリツド38の制御グリツド36側入口において電子ビームを発散させよう(断面を拡げる)とする電界の働きを指すものであるが、被告のいう第一引用公報におけるそれは、同公報四頁左欄八行から一〇行までの「予備集束レンズまで連続した強力な集束レンズが構成されており発散角は小となり微小なる交叉点を形成する」との説明から判るとおり、第一格子電極10の前面から電極11と12の中間の予備集束レンズまでの間の強い集束レンズ作用によつて電子ビームの発散を小さく抑える働きをいうもので、両者は電子光学的に全く逆の関係をなしている。しかも、同公報六頁の右説明と関連する第4図Bの等電位線分布から見れば、第二格子電極(遮蔽グリツド)の第一格子電極(制御グリツド)側入口部には発散電界ではなく明らかに集束電界が形成されている。したがつて、第一引用公報には「所要」の発散作用を生じさせることが記載されているというのは、誤りである。なお、同公報の右引用部の説明は、強力な、すなわち電子径路を大きく屈折させるような、集束電界によつて電子ビームの発散を抑えながら微かな交叉点(集合点)を形成し得るが、屈折の度合が大きいため必然的に集合点入射角と退去角が大きくなり第三格子電極12へ入射する電子ビーム径が大となることを防ぐために、予備集束(本願発明でいう事前集束)レンズを設けていることを示している。この様な予備集束レンズの使用は本願発明が避けていることであるから、この点からも右引用部分は本願発明の遮蔽グリツドの特徴を示唆するものではない。

3  認定判断の誤り第3点

本件審決は、第一引用公報あるいは第二引用公報に記載された発明と引用マイクロフイルムに記載された発明とを組み合わせることに格別の困難性は認められず、かゝる組合せによつて本願発明をすることは当業者にとつて容易なことである旨認定している(前記四6参照)。

しかし、本願発明における遮蔽グリツド厚さと第一レンズ電極の長さとの特定された組合せは「ビーム形成部と集束部の相互依存性の存在」とその重要性の認識があつて初めて可能であり、かつ事前集束作用や複雑な主集束レンズ構造を使用せずに収差の少ない低倍率の(小径の)ビーム光点像を形成できるという優れた効果を呈し、すなわち明らかに進歩性を有するものであるが、右の認定はその様な相互依存性および優れた効果の存在を看過してこれを公知技術の単なる寄せ集めとみなすものであるから、誤りである。

即ち、先ず第一引用公報及び第二引用公報には、その第二格子電極または第二グリツドの厚さとして本願発明の遮蔽グリツド厚さの範囲に入る唯一の値が示されているが、その値の選択によつてビーム集合点退去角βを小さくし所定の集束レンズ径に対する第一集束電極の最適長を決めること、即ちビーム形成部とビーム集束部の相互依存性の存在に関する認識が示されていない。また、引用マイクロフイルムには、本願発明における第一のレンズ電極(集束電極)に相当する第二陽極の長さ範囲として、本願発明の第一のレンズ電極の長さ範囲の一部に重複するものが示されているが、その様に電極長を選んだときに、特に右の重複範囲に選んだときに、ビーム形成部に在る第一陽極(本願発明の遮蔽グリツド)の厚さを本願発明における限定範囲に設定すべきことを明示していないし、ビーム集合点退去角βの減少化という事実を介してのビーム形成部と集束部の相互依存性の存在について示唆するところもない。

更に、第一引用公報及び第二引用公報には、そこに記載の如く第二格子電極または第二グリツドの厚さを選んだときに、何等かの欠点を解消するために或いは表示面上のビーム光点特性を更に改善するために、ビーム集束部特に第三格子電極12または第四グリツド14の寸法改変の必要があることが全く表明されておらず、一方、引用マイクロフイルムにも、同様にビーム形成部特に第一陽極(本願発明の遮蔽グリツドに相当)の寸法に改変の必要がある意味の記述は認められない。

なお、もちろん両引用公報及び引用マイクロフイルムには前述した本願発明の優れた効果とそれを実現するための手段やヒントも全く示されていない。

この様な事実から、当業者にとつて、各引用公報及びマイクロフイルムの記載中から特に本件審決でいう発明のみを抽出しこれらを組合せることは、格別に困難であるか否かというよりも、先ず抽出すべき選択規準及び組み合わせるべき技術的必要性の開示が無いことから、気付かないかあるいは有り得ない筈であり、これを右組合せを行つて本願発明を容易に発明できたというのは、技術的及び論理的な根拠を欠くものである。

第三  請求の原因に対する被告の認否

一  請求の原因一ないし四は認め、同五中、後記認める部分以外は争う。

本件審決の認定判断は正当であり、承継参加人主張の違法事由はない。

二1  本件審決が、請求の原因五1冒頭摘示のとおり認定判断したことは認める。

以下に主張するとおり右認定判断は正当なものである。

2  請求の原因五1(一)事実中、本願明細書一七頁六行から八行まで、一六頁六行、一九行等に「最適集束電極」との記載があること及び、本願明細書八頁(2)項、(3)項、一〇頁一〇行から一五行まで、一六頁一二行から一六行まで、一八頁八行から一六行までに、本願発明の特徴・目的あるいは効果として、本願発明で、遮蔽グリツドの厚さを開孔直径の〇・四~一・〇倍とし、第一レンズ電極の長さをレンズ直径の二・五~五・〇倍とする目的は、電子ビームの集合点進入角と退去角を減少させて陰極から任意の距離における電子ビームを細くかつ高密度化し、レンズに対するビームの充填過剰を生じることなく倍率を低下させて、レンズの中心の低球面収差部分を利用することにより、最終的に収差の少ない低倍率の(小径の)ビーム光点像を形成するという効果を得ることにあることが記載されていることは認める。

しかし、これらの事項によつて「第8図におけるレンズ直径の二・五~五・〇倍という電極長は、集合点の進入角と退去角を減少させるべく開孔直径の〇・四~一・〇倍の厚さをもつ遮蔽グリツドに対してこの効果を得るに最適の長さである。」とする点及び「この範囲を外れた長さがいわば不適切電極長に相当する」とする点は、否認する。

即ち、「最適長」について本願明細書又は図面には説明がなく、技術的にみてその意味するところが不明であるから、遮蔽グリツドの開孔直径及び第一レンズ電極のレンズ直径を一定にした場合の、遮蔽グリツドの厚さと第一レンズ電極の長さとの関係に関して「第8図は遮蔽グリツド厚さに対する第一レンズ電極の最適長の範囲を示している」及び「この範囲を外れた長さがいわば不適切電極長に相当する」とはいえないから、第8図及び明細書の関連する説明のみに基づいて「第一レンズ電極の長さがレンズ直径の二・五~五・〇倍である」ことが「遮蔽グリツドの厚さをその開孔直径の〇・四~一・〇倍に選んだときの最適長」であるということはできない。

3  請求の原因五1(二)の事実中、引用マイクロフイルムに「第一陽極(本願発明の遮蔽グリツドに相当)の厚さと開孔直径の関係に対する第二陽極の適切な長さ及び効果についての記載がない」点は認めるが、このことをもつて引用マイタロフイルムに記載された電子銃の第一陽極の厚さと開孔直径の関係に対する第二陽極の長さが本願発明と同様な効果を有しない不適切なものであるとする点は否認する。

即ち、電子銃の特性が各電極の形状のみによつて定まるものではなく、各電極の形状と印加電圧によつて定まるものであることは、技術常識であり、本願発明の電子銃は「各電極の形状寸法および印加電圧を同様なものとした上で、集合点進入角αを小さく退去角βを小さくできる遮蔽グリツドの厚さを基に第一レンズ電極の長さを決定する」ものである。

そして、「口径の四~一〇倍の長さ」である引用マイクロフイルム記載の電子銃の第二陽極の電極長は、「直径の二・五~五・〇倍の長さ」である本願発明の電子銃の第一レンズ電極の電極長と一部重複しているから、電極長のみが規定され各電極の印加電圧が規定されていない本願発明の電子銃の第一レンズ電極と、同一の効果を有するものである。

したがつて、前記事項のみをもつて引用マイクロフイルムに記載された電子銃の第一陽極の厚さと開孔直径の関係に対する第二陽極の長さが本願発明と同様な効果を有しない不適切なものであるとする、承継参加人の主張は失当である。

三1  本件審決が、請求の原因五2冒頭摘示のとおり認定判断したことは認める。

しかし、以下に主張するとおり右認定判断は正当である。

2  請求の原因五2(一)の事実中、本願明細書五頁一行から二行まで、八頁一八行目、一三頁七行から一〇行まで及び二〇頁一一行から一八行までに「事前集束作用を使用しない点」について、同一五頁一六行から一六頁二行までに「複雑な主集束レンズ構造を使用しない点」について各々記載されている点は認めるが、「ビーム形成部と集束部がそれぞれ他方を考慮して(寸法的諸元を)変えねばならぬ点」についての記載が本願明細書一六頁七行から一七頁一行まで、一七頁六行から八行まで、一八頁八行から一六行まで及び二四頁一九行から二六頁一行までに存すると認めることはできない。

また、請求原因五2(二)中、本願明細書八頁一一行から一三行、九頁一七行から一〇頁五行まで、一〇頁五行から一〇行まで、一〇頁一一行から一五行まで、一六頁三行から一六行まで及び一七頁(1)式に、ビーム形成部及びビーム集束部の作用について、遮蔽グリツドの厚さをその開孔直径の〇・四倍から一・〇倍とすることは、電子ビームの集合点角を減少させるためで、現実にその様な寸法関係を選択すれば、第一集束電極40による高圧電界が遮蔽グリツドの開孔56をつきぬけることなくその開孔に一部しか入りこまず、そのため制御グリツド電圧により形成される電界が遮蔽グリツドの開孔56に入りこんで電子線に発散力を働かせて、集合点進入角αを減少させることとなり、その結果、退去角βが減少し集合点から発散しつつ主集束レンズへ進む電子ビームの密度が高くなり、即ち比較的細く高密度のビーム78が形成されるとビーム形成部の主たる作用が説明されていること、第8図は、本願発明の電子銃において遮蔽グリツド開孔直径を約〇・六三五mm(二五mil)、集束電極のレンズ直径を約五・四六三(二一四mil)としたときの集合点退去角βと最適集束電極40の長さとを遮蔽グリツドの厚さの関数として示す図表であり、この図表を参照して、前記「ビーム形成部」の作用によつて退去角βが減少しビーム直径が縮少するため、直径が約五・四六三mmなるレンズに対して、ビーム充填過剰(レンズの、収差の大きな周辺部へのビームの拡がり)を生ずることなしに集合点から電子ビームを投入できる集束電極40の長さを増大することができ、したがつて集束電極40と42からなる集束系(即ちビーム集束部)の物体距離を伸ばして倍率を低下させることが可能になる旨の記載があることは認める。

しかし、本願明細書の二六頁二行から六行の記載によつて「本願発明が遮蔽グリツド開孔直径が〇・六三五mm以外の値のときにも適用できる」とする点、同一六頁一七行から一七頁八行までの記載によつて「遮蔽グリツド厚さと集束電極の長さ対レンズ直径の比との間にほぼ直線的な関係がある」とする点及び同一八頁三行から一六行まで及び同二五頁一七行から二六頁一行までに「相互依存性の存在」に関する説明がなされているとする点は否認する。

即ち、図面の第8図及び本願明細書の関連する説明には、遮蔽グリツド厚さをその開孔直径の〇・三倍から一・一倍の範囲で変化させた場合の集合点退去角βとの関係は示されていても、承継参加人が主張するような「ビーム形成部における遮蔽グリツド厚さをその開孔直径の〇・四倍から一・〇倍の範囲で変化させれば、それに応じてビーム集束部における第一のレンズ電極の最適長がレンズ直径の二・五倍から五・〇倍の範囲で変化する」こと、換言すれば「遮蔽グリツドはその開孔直径の〇・四~一・〇倍の厚さを持ち」、「第一のレンズ電極はそのレンズ直径の二・五~五・〇倍の長さを持つ」ことの積極的な根拠、即ち、「ビーム形成部とビーム集束部の相互依存性の存在」は、示されていない。

また、相互依存性が存在したとしてもそれは第8図に示された曲線上においてのみ存在しているのであつて、「遮蔽グリツドはその開孔直径の〇・四~一・〇倍の厚さを持ち」、「第一のレンズ電極はそのレンズ直径の二・五~五・〇倍の長さを持つ」とこるの、第8図に面で示される本願発明の電子銃全てについてこの相互依存性が存在するとはいえない。

3  遮蔽グリツドの厚さをその開孔直径の一・〇倍以下に限定した理由として挙げられた「一・〇倍以上にするとレンズの収差効果が現われて周辺のボケたビーム光点を生ずる」について本願明細書及び図面には具体的な説明がなく、「無用のドリフト領域が形成され」及び「製作時の加工が困難になる」は技術常識であるから「遮蔽グリツドの厚さをその開孔直径の〇・四~一・〇倍に限定した」ことに格別の意味はない。

即ち、第一引用公報六頁第4図、第5図及び関連する説明が記載された同四頁左欄五行から一〇行までには厚さが開孔直径に比べて大きい遮蔽グリツドが本願発明と同様な発散角の小さな集束レンズを形成すること、換言すれば「所要」の発散作用を生じさせることが記載されている。

また、第一引用公報四頁右欄一行から一一行までに第二格子電極の孔径を大とすることにより球面収差を取り除けること、いいかえれば遮蔽格子の厚さを小さくすると球面収差を取り除けることが記載されており、これは承継参加人のいう「不都合の発生とその解決策」を開示しているものである。

そして、厚さが開孔直径に比べて小さい遮蔽グリツドが所要の発散作用を奏し得ないことは技術常識からみて明らかなことであり、〇・四倍以下のものは各引用公報及び引用マイクロフイルムに記載されているから、「遮蔽グリツドの厚さをその開孔直径の〇・四倍以上」に限定することは、第一引用公報、第二引用公報及び引用マイクロフイルムに記載された発明を単に排除するだけのものにすぎない。

四  本件審決が、請求の原因五3摘示のとおり認定判断したことは認める。

しかし、右認定判断は正当であり、承継参加人主張のような誤りはない。

即ち、前記二及び三で主張したように、本願発明における第一レンズ電極の電極長の選定理由は引用マイクロフイルムに記載された発明の第二陽極の電極長の選定理由と同一のものであつて格別の意味があるとはいえず、ビーム形成部と集束部との間に相互依存性は存在しないから、各引用公報およびマイクロフイルムに記載された発明を組合せることに困難な点はない。

第四  証拠関係

証拠関係は、記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(承継参加人による権利の承継)、三(本願発明の要旨)及び四(本件審決の理由の要点)は、当事者間に争いがない。

二  本願発明について

成立について当事者間に争いのない甲第二号証ないし甲第七号証によれば、本願特許願に当初添附された明細書に昭和五四年六月六日付、同年六月一五日付、昭和五五年一月三一日付、昭和五八年六月九日付及び昭和六一年五月一三日付各手続補正書によつて補正を加えたもの(以下「本願明細書」という。)並びに本願特許願に添附された図面(以下「本願図面」という。)には、本願発明について次のような記載のあることが認められる。

1  請求の原因三(本願発明の要旨)のとおりの特許請求の範囲第1項。

2  この発明は陰極線管、特に家庭用テレビジョン受像機に用いられるカラー映像管とその電子銃に関する(甲第二号証三頁二行から四行まで)。

第1図(本判決別紙本願図面第1図)に略示するように、カラー映像管で普通用いられる電子銃は、陰極2、制御グリツド3、遮蔽グリツド4及び二個以上の集束電極5、6を含む複数個の整列電極を具備する。この電子銃の遮蔽グリツドまでの部分はビーム形成部7を、遮蔽グリツドから先の部分は集束部8をそれぞれ構成する。このような電子銃の動作においては、陰極から放出される電子9が遮蔽グリツド近傍の集合点10に集中され、電子銃の集束部の電極5、6間に形成される主集束レンズによつて、この集合点10が表示面11上の結像面に小光点として結像される。ここで電子がこの集合点に近づく集合角αを進入角と呼び、電子が集合点を離れる発散角βを退去角と呼ぶ(甲第二号証三頁五行から一八行まで)。

3  大抵の当業者は、一般に電子銃のビーム形成部7と集束部8との間には相互作用が少しもないと信じ、電子銃を改良する際これらの両部分の一方に注目するとき他方にはほとんど注目しないのが普通であつた。ところがこの出願の発明者は、電子銃の集束系により表示面上に結像される第一の集合点が、電子銃中、従来考えられていたより遥かに前方にあることを発見し、これに基づいて電子銃のビーム形成機能とそれに続く集束機能との間の相互依存性を知るに至つた。この結果、電子銃の諸設計値を正しく選択し組み合わせることによつてそのビーム光点性能に予期しない改善が得られることが判つた(甲第二号証四頁三行から一五行まで)。

この発明による新規な電子銃が従来法の同類の電子銃に対する主特徴は、遮蔽グリツドが厚いこと、遮蔽グリツドと第一レンズ電極との間の電界が強いこと及び/又は主集束系の物体距離が長いことである(甲第二号証四頁一六行から二〇行までに補正を加えたもの)。

4  二電位形式によるこの発明の電子銃26は次のような特徴を有する。

・・・(中略)・・・

(2) 電子ビームの集合点角を減少するため遮蔽グリツドの平板部52の厚さがその開孔56の直径の〇・四倍ないし一・〇倍であること。

(3) 物体距離を最大にして電子銃の倍率を小さくするため第一集束電極40の長さが該電極の集束レンズ直径の二・五から五・〇倍と異常に長いこと。大抵の場合これは遮蔽グリツドの厚さの約四〇から六〇倍である(甲第二号証八頁四行から一七行までに補正を加えたもの)。

5  電子銃26は遮蔽グリツド38と第一集束電極40との間に強い電界が生じるようにその間隔を比較的狭くすると共に/あるいは第一集束電極の電圧を比較的高くして働かされる。第一集束電極40によるこの高圧電界は等電位線72で示すように遮蔽グリツド38の開孔へ入り込むが、遮蔽グリツド38の厚さが制御グリツド36のそれと実質的に同じで、また第一集束電極40からの高電圧が遮蔽グリツドの開孔を完全につきぬける従来法の電子銃とは異なり、この発明の電子銃の厚い遮蔽グリツドはその開孔56の直径に比べて充分に厚いため開孔に一部しか入りこまない。これによつて等電位線74で示すように制御グリツド電圧により形成される電界が遮蔽グリツドの制御グリツド側から遮蔽グリツドの開孔56に入りこんで電子線68に発散力を働かし得るようになる。このため集合点進入角α(別紙本願図面第1図)が他の場合に比し減少し、集合点70が他の場合より表示面に接近する。これにより退去角βが減少し、電子線76が集合点から発散しつつ主集束レンズへ進む電子ビームの密度が高くなり、図示のように陰極34から任意の距離において電子線76は比較的細く高密度のビーム78を形成する。

また遮蔽グリツド38の比較的平坦な軸に直交する板状部52もこの発明の電子銃26の特徴である。このような扁平な電極構造により遮蔽グリツドと第一集束電極との間にこのように比較的平坦で事前集束作用が実質的にない等電位線82が形成される。電子銃のこの部分で事前集束を避けられることは以下詳述するように倍率の低下につながる(甲第二号証九頁一四行から一一頁二行までに補正を加えたもの)。

6  光点寸法比の向上は遮蔽グリツドと集束電極との間の電界強度が高いほどよいことを示唆するが、電子銃に若干の補償用の修正をしないと、単にこの電極間電界を強化するだけでは、集合点に入る前の遮蔽グリツド開孔に形成される集束電界の著しい上昇と、集合点に続く集束電極開孔における発散電界の著しい上昇のために、電子ビームの退去角βが増大する。

この退去角の増大を補償する標準的従来法の一つは、遮蔽電極と集束電極との間に事前集束用レンズを設けることである。しかし、この事前集束用電界は以下詳述するように退去角の増大に最適の補償を与えることはできないと考えられる。

このような集合点退去角の増大に対処する他の従来法が米国特許第三九九五一九四号明細書に示唆されており、ここでは単純な単一レンズによる集束系の代りに、複合三レンズ主集束系が用いられている。しかし、このような複合集束系は電子銃の構造および動作電位の追加手段の点から不経済である(甲第二号証一五頁三行から一六頁二行まで)。

7  第8図は、この発明の電子銃26において、遮蔽グリツド開孔直径約〇・六三五mm(二五mil)、集束電極40のレンズ直径約五・四三六mm(二一四mil)の実施例における集合点退去角βと最適集束電極40の長さとを遮蔽グリツド厚さの関数として示す図表である。この曲線は遮蔽グリツド厚さが約〇・二五四mm(一〇mil)即ちその開孔の〇・四倍から約〇・六三五mm(二五mil)即ち開孔の一・〇〇倍まで変化するとき集合点退去角βが〇・〇六七五ラジアンから〇・〇四ニラジアンまで減少することを示している。退去角βの減少にしたがつてビーム直径が縮小するため、レンズに対するビーム充填過剰を生ずることなく集束電極40長を増大することができ、したがつて集束系の物体距離を伸ばして倍率を低下させることができる。この曲線は、また遮蔽グリツド厚さ約〇・二五四mm(一〇mil)及び約〇・六三五mm(二五mil)に対する所要最適集束電極40長がそれぞれ約一三・九七〇mm(五五〇mil)および約二六・九二四mm(一〇六〇mil)であることを示している。このように遮蔽グリツドの厚さは集束電極40の長さ/集束電極40のレンズ直径の比で表すことができる。この比は遮蔽グリツド厚さが約〇・二五四mm(一〇mil)から約〇・六三五mm(二五mil)まで変化すると二・五七から四・九五まで変わることがわかる。したがって、遮蔽グリツド厚さがその開孔直径の〇・四倍から一・〇倍まで変化すると最適集束電極40長の範囲が約二・五から五・〇まで変わる。これらの数字からこの発明の電子銃26のこの実施例に対し最適集束電極40長が上記の好ましい寸法変動の範囲に亘つて遮蔽グリツドの厚さの約四〇倍から六〇倍まで変わることがわかる(甲第二号証一六頁三行から一七頁一一行までに補正を加えたもの)。

8  公知のように電子銃の倍率は次の式で表される。

:001表

ここでMはビーム光点の倍率、Qは結像距離即ちビーム光点の結像される結像面と主集束レンズとの距離、Pは物体距離即ち主集束レンズとビーム集合点との距離、Vcは集合点の電圧、Vaは陽極即ち結像面の電圧である。

第9a図は陰極34からの電子が陰極から比較的遠い位置にある第一の集合点70に比較的小さい進入角αで集中するこの発明の電子銃26の電子ビーム形成の様子を示している。電子はこの集合点から主集束レンズMFまで発散し、ここで陽極A上に集束されて集合点の像を結ぶ。集合点退去角βが比較的小さいため、主集束レンズに達したビームの拡がりも比較的小さく、レンズの中心の低球面収差部分で働いて表示面上に比較的収差の少ないビーム光点像を形成することができる。またビーム集合点退去角βが比較的小さいため、物体距離P1が比較的大きく、したがつてQ1\P1の比が小さいため従来法の電子銃より好都合の即ち低い倍率が得られる(甲第二号証一七頁一四行から一八頁一六行までに補正を加えたもの)。

9  遮蔽グリツドの厚さをその開孔直径の〇・四~一・〇倍にするとそのグリツドの入口で所要の発散作用を生じることがわかつている。その厚さをその開孔直径の〇・四倍以下にすると発散作用はほとんどまたは全く得られないし、その厚さが開孔の直径を超え始めると収差効果が著しくなり、ビーム外側の電子線が内方に向かつて尚早の集束を起し、周辺がボケた濃い核を持つピントはずれのビーム光点を形成する。また遮蔽グリツドの厚さ対開口直径の比が一を超え始めると、そのグリツドを通る無用のドリフト領域が作り出され、また通常の打抜き法では所要の開孔を素材に形成することが次第に困難になる。このため上記の比の範囲は〇・四から一・〇までが電子工学の見地だけでなく機械的工作技術の面からも現実的である(甲第二号証二四頁四行から一八行までに補正を加えたもの)。

10  第一集束電極の長さは、任意に選ばれた三・五mAの基準ハイライト駆動電流で電子銃が動作するとき、この電極の向前端にある主集束レンズ内における電子ビームの直径が、この電極のレンズ形成用開口の直径の約二分の一またはそれより僅かに小さくなるように選ぶ。上述のような好ましい構造的寸法及び動作電圧を持つ電子銃においては、これを三・五mAのビーム電流で駆動したとき、主集束レンズ内の電子ビームの直径は約二・二二九mm(八七・七四mil)即ちそのレンズの第一集束電極開口直径の〇・四一倍であつた。この集束レンズ電極をさらに長くすると物体距離が増し、倍率がさらに低下するが、これによつてレンズ内のビーム直径が大きくなり、レンズの球面収差の問題が大きくなる。また、この電極をさらに短くすると球面収差は減るが倍率が増大する。主集束レンズ内で最大許容ビーム直径が得られるように電子銃を設計すると、また、空間電荷の作用を受けにくい低密度ビームの利点が得られる(甲第二号証二四頁一九行から二五頁一七行まで)。

11  遮蔽グリツドの厚さがその開孔直径の約〇・四倍から一・〇倍まで変わると、ビームの集合点退去角βが約〇・〇六七五ラジアンから〇・〇四二ラジアンまで変り、最適集束電極の長さがそのレンズ開孔直径の約二・五倍から五・〇倍までになる。

この第一集束レンズ電極の長さとレンズ直径との間の二・五倍~五・〇倍の関係は、遮蔽グリツド開孔直径が約〇・六三五mm(二五mil)のとき(第8図)だけでなく、他の適当な開孔寸法のときにも同様に成立することが実験的に示されている(甲第二号証二五頁一七行から二六頁六行まで)。

12  本判決別紙本願図面のとおりの図面。

三  認定判断の誤り第1点について

1  請求の原因五1(一)の事実中、本願明細書中に、本願発明の特徴・目的あるいは効果として、本願発明で、遮蔽グリツドの厚さを開孔直径の〇・四~一・〇倍とし、第一レンズ電極の長さをレンズ直径の二・五~五・〇倍とする目的は、電子ビームの集合点進入角と退去角を減少させて、陰極から任意の距離における電子ビームを細くかつ高密度化し、レンズに対するビームの充填過剰を生じることなく倍率を低下させて、レンズの中心の低球面収差部分を利用することにより、最終的に収差の少ない低倍率の(小径の)ビーム光点像を形成するという効果を得ることにあることが記載されていることは当事者間に争いがない。

2  前記二1及び4認定の本願明細書の記載によれば、本願発明は、家庭用カラーテレビジョン受像機に用いられる、二電位形式の電子銃に関するものであることが認められる。

前記二7認定の本願明細書の記載によれば、本願図面第8図は、遮蔽グリツドの開孔直径を約〇・六三五mm(二五mil)、集束電極のレンズ直径を約五・四三六mm(二一四mil)とした実施例において、遮蔽グリツドの厚さを約〇・二五四mm(一〇mil)から約〇・六三五mm(二五mil)まで、即ち遮蔽グリツドの開孔直径の〇・四倍から一・〇倍まで変化させたときに、これに対する最適集束電極長がそれぞれ約一三・九七〇mm(五五〇mil)及び約二六・九二四mm(一〇六〇mil)であり、集束電極の長さ/集束電極のレンズ直径の比で表すと、約二・五倍から五・〇倍の範囲が最適であることを示しているものと認められる。

また、前記二11認定の本願明細書の記載によれば、遮蔽グリツドの厚さがその開孔直径の約〇・四倍から一・〇倍まで変わると、最適集束電極の長さがそのレンズ開孔直径の約二・五倍から五・〇倍までになるという関係は、遮蔽グリツド開孔直径が約〇・六三五mm(二五mil)のときだけでなく、他の適当な開孔寸法のときにも同様に成立するものであることも認められる。

そして、前記二10認定の本願明細書の記載によれば、右の最適集束電極長とは、任意に選ばれた三・五mAの基準ハイライト駆動電流で電子銃が動作するとき、この電極の向前端にある主集束レンズ内における電子ビームの直径が、この電極のレンズ形成用開口の直径の約二分の一またはそれより僅かに小さくなるような長さを指し、この電極の長さをそれより長くすると球面収差の問題を生じ、またそれより短くすると倍率が増大し、いずれも電子銃として不適切となるものと認められる。

したがつて、集束電極の最適長の技術的意味に不明の点はない。

3  当事者間に争いがない請求の原因三(本願発明の要旨)及び右1、2によれば、本願発明は、単に第一収束電極の長さがそのレンズ開孔直径の二・五倍から五・〇倍の範囲になるように選定するだけで、その目的とする効果を奏するものではなく、右の範囲の限定と共に、遮蔽グリツドの厚さをその開孔直径の〇・四倍から一・〇倍と限定することにより、その目的とする効果を奏するものであることは明らかである。

4  請求の原因四(本件審決の理由の要点)3(三)の、引用マイクロフイルムの実用新案登録請求の範囲には、「一五kv以上の高電圧が印加される第三陽極とともに集束形の電子レンズを生起する第二陽極の長さを、同第二陽極の先端開口部口径の四ないし一〇倍となしたバイポテンシヤル形電子銃を備え、前記第二陽極に第三陽極電圧の二五ないし五〇%に相当する高電圧を印加したことを特徴とするカラー受像管装置。」の発明が記載されていること、請求の原因四4中、引用マイクロフイルムにおける「第二陽極」及び「第三陽極」は、本願発明における「第一のレンズ電極」及び「第二のレンズ電極」に相当するから、引用マイクロフイルムに記載された発明における、「第三陽極とともに集束形の電子レンズを生起する第二陽極の長さを、同第二陽極の先端開口部口径の四ないし一〇倍となした」は、「第二レンズ電極とともに集束形の電子レンズを生起する第一レンズ電極の長さを、同第一レンズ電極の先端開口部口径の四ないし一〇倍となした」ということであることは、承継参加人が自ら認めるところである。

5  成立について当事者間に争いのない甲第一一号証(引用マイクロフイルム)によれば、

(一)  引用マイクロフイルム記載の考案は、低輝度時及び高輝度時における解像度を向上させることを目的とし、前記の構成を採用することにより、その目的を達成したものであること(甲第一一号証一頁二〇行から二頁一行まで及び同五頁一行から八行まで参照。)、

(二)  バイポテンシヤル形電子銃を備えた受像管の駆動において、第二陽極電圧を高めると、電子レンズの像倍率が小さくなり、かつ、電子ビームの反発による拡がりが減少するので、螢光体スクリーン面上に良好なスポツトを得ることができる。しかし、第二陽極電圧がある値を越えると、主レンズを通過する電子ビームの径が過大となるので、電子レンズの収差が増し、スクリーン上のスポツト径が増大して解像度に低下を来す。そこで、一般には・・・(中略)・・・第二陽極電圧は第三陽極電圧の約五分の一を目途にして設定されていた。

引用マイクロフイルム記載の考案のカラー受像管装置によると、そのバイポテンシヤル形電子銃に比較的長い第二陽極を有せしめ、これに第三陽極電圧(一五kv以上)の二五~五〇%に相当する高電圧を印加するのであり(甲第一一号証二頁二行から三頁一行まで)、

(三)  第二陽極4(本願発明における第一レンズ電極)の先端開口部7における口径をaとすると、・・・(中略)・・・第一陽極3(本願発明の遮蔽グリツドに相当するものと認められる。)の長さl1は約〇・五aに、第三陽極5(本願発明における第二レンズ電極)の長さl2はa~一・五aにそれぞれ設定されており、制御格子2(本願発明における制御グリツドに相当するものと認められる。)と第一陽極3との相互間隔は約〇・一aであること(甲第一一号証三頁七行から一三行まで、別紙引用マイクロフイルム図面第1図参照)、が認められる。

引用マイクロフイルム中には、右認定以上に、引用マイクロフイルム記載の考案における第一陽極の開口(本願発明における遮蔽グリツドの開孔)の直径とその長さの割合を認めるに足りる記載はない。また、引用マイクロフイルム中には、第一陽極の厚さとその開口の直径の関係に対する第二陽極の適切な長さ及び効果についての記載がないことは当事者間に争いがない。

6  右4、5の事実によれば、引用マイクロフイルム記載の考案は、カラー受像管のバイポテンシヤル形電子銃において、第二陽極(第一のレンズ電極)の長さを、その先端開口部口径の四ないし一〇倍とし、かつ、前記第二陽極(第一のレンズ電極)に第三陽極(第二のレンズ電極)電圧(一五kv以上)の二五ないし五〇%に相当する高電圧を印加することにより、電子レンズの像倍率を低くし、収差を減らし、スクリーン(表示面)上のスポツト径(光点の径)を小さくし、低輝度時及び高輝度時における解像度を向上させる効果を奏することを特徴とするものである。

7  本願発明と引用マイクロフイルム記載の考案の特徴を対比すると、両者は、その発明、考案に係わる物及び目的。効果に類似、共通する点があり、また、その構成においても、第一のレンズ電極(第二陽極)の長さを、その直径の四・〇倍から五・〇倍とする限度では共通していることは明らかである。

引用マイクロフイルム記載の考案は、第一のレンズ電極(第二陽極)の長さを、その直径の四・〇倍から一〇・〇倍の範囲に限定するだけではなく、第一のレンズ電極に、一五kv以上の高電圧が印加される第二のレンズ電極(第三陽極)電圧の二五ないし五〇%に相当する高電圧を印加することにより、その目的とする効果を奏しているものであるが、前記甲第二号証ないし甲第七号証によれば、本願明細書には、本願発明の実施例として、第二集束電極電位(第二のレンズ電極電位)が三〇〇〇〇V(三〇kv)、第一集束電極電位(第一のレンズ電極電位)がその約二八・三%の八五〇〇Vのものが開示されていること(甲第二号証二一頁一九行から二〇行までに補正を加えたもの)が認められるから、第一、第二の各集束電極(レンズ電極)に高電圧が印加される点でも、本願発明と引用マイクロフイルム記載の考案とは共通するところがあるものと認められる。

しかし、本願発明は、単に第一集束電極の長さがそのレンズ開孔直径の二・五倍から五・〇倍の範囲になるように選定するだけで、その目的とする効果を奏するものではなく、右の範囲の限定と共に、遮蔽グリツドの厚さをその開孔直径の〇・四倍から一・〇倍と限定することにより、その目的とする効果を奏するものであることは前記3のとおりであり、しかも、右の第一収束電極の長さとそのレンズ開孔直径の割合と遮蔽グリツドの厚さとその開孔直径の割合は、相互に無関係に限定されたものではなく、ビーム形成部と集束部との相互作用の存在を考慮して、両者を互いに関係つけて限定されたものであることは、前記二認定、特に二3、5ないし7認定の本願明細書の記載から明らかである。

これに対し、引用マイクロフイルム記載の考案においては、第二陽極の長さとその口径の割合は、第二陽極に比較的高い電圧を印加することとともに選択されているが、引用マイクロフイルムには、第一陽極の開口(本願発明における遮蔽グリツドの開口)の直径と第一陽極(本願発明における遮蔽グリツド)の長さの割合を認めるに足りる記載のないこと及び第一陽極の厚さとその開口の直径の関係に対する第二陽極の適切な長さ及び効果についての記載がないことは、前記5のとおりであり、引用マイクロフイルム記載の考案においては、第二陽極(第一のレンズ電極)の長さとその口径の割合は、第一陽極の開口(本願発明における遮蔽グリツドの開孔)の直径と第一陽極(本願発明における遮蔽グリツド)の長さの割合とは関係なく選択されたものであることは明白である。

したがつて、本願発明において、第一のレンズ電極の長さをその直径の二・五倍から五倍までに限定したことは、引用マイクロフイルム記載の考案において第二陽極(第一のレンズ電極)の長さをその口径の四倍から一〇倍と限定したこととは別の技術的意味を有するのであり、本願発明の第一のレンズ電極がそのレンズ直径の二・五倍から五倍までの長さを持つことは、引用マイクロフイルム記載の考案のように四倍から一〇倍の長さを持つことに対して格別の意味を有しているとは認められない旨の本件審決の認定判断は誤りである。

四  認定判断の誤り第2点について

1  請求の原因五2(一)の事実中、本願明細書の承継参加人主張の部分に、事前集束作用を使用しない点及び複雑な主集束レンズ構造を使用しない点がそれぞれ記載されていることは当事者間に争いがない。

また、請求の原因五2(二)の事実中、本願明細書の承継参加人主張の部分に、ビーム形成部及びビーム集束部の作用について、遮蔽グリツドの厚さをその開孔直径の〇・四倍から一・〇倍とすることは、電子ビームの集合点角を減少させるためで、現実にその様な寸法を選択すれば、第一集束電極による高圧電界が遮蔽グリッドの開孔をつきぬけることなくその開孔に一部しか入りこまず、そのため制御グリツド電圧により形成される電界が遮蔽グリツドの開孔に入りこんで電子線に発散力を働かせて、集合点進入角αを減少させることとなり、その結果、退去角βが減少し集合点から発散しつつ主集束レンズヘ進む電子ビームの密度が高くなり、即ち比較的細く高密度のビームが形成されると説明されていること、第8図は、本願発明の電子銃において遮蔽グリツド開孔直径を約〇・六三五mm(二五mil)、集束電極のレンズ直径を約五・四六三mm(二一四mil)としたときの集合点退去角βと最適集束電極の長さとを遮蔽グリツドの厚さの関数として示す図表であり、この図表を参照して前記「ビーム形成部」の作用によつて退去角βが減少しビーム直径が縮小するため、直径が約五・四六三mmなるレンズに対して、ビーム充填過剰(レンズの、収差の大きな周辺部へのビームの拡がり)を生ずることなしに集合点から電子ビームを投入できる集束電極の長さを増大することができ、したがつて集束電極40と42からなる集束系(即ちビーム集束部)の物体距離を伸ばして倍率を低下させることが可能になる旨の記載があることは当事者間に争いがない。

2  右1の事実及び前記二3、5、6ないし8、11認定の本願明細書の記載によれば、本願明細書中の「ビーム形成機能とそれに続く集束機能との間の相互依存性」とは、ビーム光点性能を改善する目的からみたとき、ビーム形成部の構成と集束部の構成が相互に影響を与える関係にあり、一方の構成は他方の構成を考慮して決めなければならないこと、具体的には、遮蔽グリッドの開孔の直径とその厚さの割合及び第一レンズ電極のレンズの直径とその長さの割合が相互に影響を与える関係にあり、一方は他方を考慮して決めなければならないことを指しているものと認められる。

そして、右1の事実及び前記二3、5、6ないし8、11認定の本願明細書の記載によれば、本願発明では、遮蔽グリツドの厚さをその開孔直径の〇・四倍から一・〇倍とすることにより、電子ビームの集合点角を減少させることができ、それにより退去角βが減少し、集合点から発散しつつ主集束レンズヘ進む電子ビームが、比較的細く高密度となること、その結果、一定の直径のレンズに対して、ビーム充填過剰を生ずることなしに集束電極の長さを増大することができ、したがつてビーム集束部の物体距離を伸ばして倍率を低下させることが可能になるという、ビーム形成部の構成と集束部の構成が相互に影響を与える関係にあること、遮蔽グリツドの開孔直径を約〇・六三五mm、集束電極のレンズ直径を約五・四三六mmの本願発明の実施例において、遮蔽グリツドの厚さを遮蔽グリツドの開孔直径の〇・四倍から一・〇倍まで変化させたときに、集束電極長が集束電極のレンズ直径の約二・五倍から五・〇倍の範囲が最適であり、その関係は、遮蔽グリツド開孔直径が約〇・六三五mmのときだけでなく、他の適当な開孔寸法のときにも同様に成立するものであることが認められるから、本願明細書には、本願発明のビーム形成部と集束部の相互依存関係の存在が示されているものと認められる。

3  被告は、仮に承継参加人主張のような相互依存性があるとしてもそれは第8図に示された曲線上においてのみ存在しているのであり、遮蔽グリツドはその開孔直径の〇・四倍から一・〇倍の厚さを持ち、第一のレンズ電極はそのレンズ直径の二・五~五・〇倍の長さを持つところの、第8図に面で示される本願発明の電子銃全てについて、この相互依存性が存在するとはいえない旨主張する。

しかし、遮蔽グリツドの厚さをその開孔直径の〇・四倍から一・〇倍とすることにより、電子ビームの集合点角を減少させることができ、それにより退去角βが減少し、集合点から発散しつつ主集束レンズヘ進む電子ビームが、比較的細く高密度となること、その結果、一定の直径のレンズに対して、ビーム充填過剰を生ずることなしに集束電極の長さを増大することができ、したがつてビーム集束部の物体距離を伸ばして倍率を低下させることが可能になるという、ビーム形成部の構成と集束部の構成が相互に影響を与える関係にあり、本願発明がその相互依存性を前提にしたものであることは前記のとおりであり、相互依存性が本願図面第8図の曲線上にのみ存在するという主張は、その証拠を欠くものといわなければならない。

また、最適第一集束電極長の意味自体は前記三2に判断したとおり明らかではあるが、かなり幅のあるものであることはその意味から推認されるところであり、一定の遮蔽グリツドの厚さに対する最適第一集束電極長が一義的に定まり、これをグラフで表すと本願図面第8図に表された曲線の内、遮蔽グリツドの厚さがその開孔直径の〇・四倍から一・〇倍となる間に相当する区間の曲線のようになり、第8図の右曲線上に該当しない第一集束電極の長さは最適ではないというものではなく、第8図の曲線の右区間の両側には一定の幅の最適電極長を表す帯域があり、その周囲には最適とはいえないまでも適切な帯域があることは、右最適第一電極長の性質から推認できるところである。現に前記甲第二号証ないし甲第七号証によれば、本願明細書に記載された一実施例においては、遮蔽グリツドの厚さ二〇milに対し、第8図のグラフによれば最適第一集束電極長は九〇〇mil弱であるところ、第一集束電極の長さを九二五milとしており(甲第二号証二一頁に補正を加えたもの。本願図面第8図。)、更に、本願明細書中で、「このように長くしたのは第一集束電極電圧八五〇〇Vで適正動作するような総合構造を得るためである。球面収差対倍率の損失を考えると、最適長さからの離脱は重要な問題ではない。」(甲第二号証二八頁一六行から二〇行まで)と説明されている。

これらのことを併せ考えると、遮蔽グリツドがその開孔の直径の〇・四倍から一・〇倍までの厚さを持つことは、第一のレンズ電極がそのレンズ直径の二・五倍から五・〇倍までの長さを持つことと、全体として相互依存性を有するものと認められ、前記被告の主張は採用できない。

また、被告は、本願発明が、遮蔽グリツドの厚さをその開孔直径の一・〇倍以下に限定した理由について具体的説明がなく、右限定には格別の意味はなく、〇・四倍以上に限定した理由も、第一引用公報、第二引用公報及び引用マイクロフイルム記載の発明を単に排除するだけにすぎない旨主張する。

しかし、前記二9認定の本願明細書の記載のとおり、遮蔽グリツドの厚さをその開孔直径の〇・四~一・〇倍にするとそのグリツドの入口で所要の発散作用を生じるのに対し、その厚さをその開孔直径の〇・四倍以下にすると発散作用はほとんどまたは全く得られないし、また、その厚さが開孔の直径を超え始めると収差効果が著しくなり、ビーム外側の電子線が内方に向かつて尚早の集束を起し、周辺がボケた濃い核を持つピントはずれのビーム光点を形成する上、遮蔽グリツドの厚さ対開口直径の比が一を超え始めると、そのグリツドを通る無用のドリフト領域が作り出され、また通常の打抜き法では所要の開孔を素材に形成することが次第に困難になることが本願明細書に明示されており、遮蔽グリツドの厚さのその開孔直径に対する比の前記限定には技術的意味があるものと認められ、被告の右主張は採用できない。

五  認定判断の誤り第3点について

1  本件審決の、本願発明における、「遮蔽グリツドはその開孔の直径の〇・四~一・〇倍の厚さを持つている」ことは、第二引用公報に記載された発明の構成のように〇・六七倍の厚さを持つことに対して格別の意味を有しているとは認められず、またこの〇・六七倍という数値が本願発明の構成である〇・四~一・〇倍の範囲に含まれることをも併せて考えると、本願発明におけるこの数値限定は、第二引用公報に記載された発明の構成として開示されている旨、第一引用公報には、発明の構成として、遮蔽グリツドである第2格子電極の厚さが孔径とほぼ等しい電子銃、即ち、本願発明の構成の数値の上限である一・〇倍の電子銃が開示されている旨(以上、請求の原因四(本件審決の理由の要点)5(一)参照)、本願発明における、「第一のレンズ電極はそのレンズ直径の二・五~五・〇倍の長さを持つている」ことは、引用マイクロフイルムに記載された発明の四~一〇倍という数値の一部が含まれることを考えると、本願発明のこの数値限定は引用マイクロフイルムに記載された発明の構成として開示されている旨(請求の原因四5(二)参照)、本願発明の特許請求の範囲(1)に記載されたその他の構成はいずれも電子銃の構成として知られているものであるから、結局、本願発明と第一引用公報、第二引用公報及び引用マイクロフイルムに記載された発明とは、その構成において、本願発明の「遮蔽グリツドはその開孔直径の〇・四~一・〇倍の厚さを持ち」、「第一のレンズ電極はそのレンズ直径の二・五~五・〇倍の長さを持つている」のに対し、第一引用公報、第二引用公報及び引用マイクロフイルムに記載された発明がどちらか一方の構成しか有していない点のみで、両者は相違している旨(請求の原因四5(三)参照)の認定判断は、承継参加人の自ら認めるところである。

2  本願発明が、電子ビーム形成機能とそれに続く集束機能との間に相互依存性が存在することを見いだしたことを発明の原理とするもので、具体的には、電子ビーム形成機能を発揮するための構成である遮蔽グリツドについては、その厚さをその開孔直径の〇・四~一・〇倍になるように選定し、同時に、電子ビーム集束機能を発揮するための構成である第一のレンズ電極については、その長さをそのレンズ直径の二・五~五・〇倍になるように設定したもので、その結果、従来のこの種の電子銃に比べて物体距離を長くし、電子銃の倍率を小さくでき、ビーム光点性能を改善する等の作用効果を奏するものであることは、前記二ないし四に判断したとおりである。

これに対し、前記甲第一一号証、成立について当事者間に争いのない甲第九号証、甲第一〇号証によつても第一引用公報、第二引用公報及び引用マイクロフイルムには、本願発明がその原理とした電子ビーム形成機能と電子ビーム集束機能との間の相互依存性についての記載は認められないから、第一引用公報及び第二引用公報に開示されている遮蔽グリツドについての構成に、引用マイクロフイルムに開示されている第一のレンズ電極についての構成を組み合わせる技術的な必然性は認められない。

これに反し、前記認定判断の誤り第1点及び第2点のとおり認定判断を誤つた上、第一引用公報あるいは第二引用公報に記載された発明と引用マイクロフイルムに記載された発明とを組み合わせることに格別に困難な点は認められず、本願発明をすることは、当業者にとつて容易なことであるとした本件審決の認定判断は誤りである。

六  よつて、本件審決にはその主張の違法があることを理由に、本件審決の取消を求める承継参加人の請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 元木伸 裁判官 西田美昭 裁判官 島田清次郎)

別紙本願図面

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別紙引用マイクロフィルム図面

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